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Moment di 360°

01

portafortuna

くすんだ東京の空はきっとこの靴に嫉妬するだろう、と私は会議室の窓から自分の足元に視線を移した。セルリアンブルーのパンプスは、グレーのカーペットにことさら美しく映えていた。今日は絶対にこの靴を履こうと思っていたのだ。青い空を見上げた時のように心がすっと落ち着いて、このヒールのようにまっすぐな気持ちになれるから。
私にとって、お気に入りの靴は武器なのかもしれない。いつだって自信という強さを与えてくれる。

  • 「おはようございます」
    会議の資料を抱えた部下が、部屋に入って来た。いつもよりもきっちりと整えられた髪が端正な顔立ちによくマッチしていた。ネイビーのネクタイも品がいい。
    「おはよう」
    長い会議テーブルに、等間隔でフォルダが並べられていく。あと二十分もすればこの部屋はいっぱいになり、並々ならぬ緊張感で満たされるだろう。
    今日のプレゼンテーションですべては決定するのだ。
    「緊張、されてますか?」
    部下はテーブルに肘を突き、パワーポイントのスライドをチェックしながら、そう尋ねた。私の鼓動と重なるように、カチカチとマウスが音を立てた。
    もちろん緊張はしている。でも全力を注いだし、やれることはすべてやった。今まで積み重ねてきたものもある。
    私は首を振った。

  • 「大丈夫」
    それに、今日はこの靴を履いているし。と心の中で付け加えると、右足から左足に重心を移した。柔らかいスエードの感触が張りつめた気持ちを和らげてくれる。
    「……先輩は、みんなの憧れですよ」
    ラップトップから顔を上げた後輩は、真剣すぎるような表情で私を見た。
    「どうしたの、急に?」
    「あ、晴れた」
    私は部下の視線を追うように、急に明るくなった窓の方を振り返った。

    幹線道路を走り抜けて行くメタリックに輝く車たち、出社を急ぐビジネスマンたちの群れ、次第に濃さを増していく木々の緑に、雲間から顔を出した太陽の金色の光が降り注いだ。そう、これは兆し。きっと、すべて上手くいく。私はまっすぐに背筋を伸ばし、深呼吸をした。

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