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Moment di 360°

10

never flatter

それは久々に目にしたロングブーツだった。足首までストンとまっすぐなフォルムのサイドには小さなゴールドのアイレットが埋め込まれ、ほんのりスパイスの利いた雰囲気が印象的なブーツだ。

「素敵…。」
おしゃべりに興じながら街を歩いていたはずの私が突然ウィンドウの前で足を止めて、しかも独り言を言うだなんて、あまりないことだったものだから、声が漏れた瞬間、自分に驚いた。
友人も気づかないほど一瞬のことだったけれど、いつも気になるものとは少し違うテイストのブーツに心がざわついたのかわからないまま、でもただただこの動揺を早く止めたくて、足早にその場を立ち去った。

  • 友人とのお茶をいつものように楽しむうち、ブーツのことなどすっかり忘れ、帰りの電車の中では、特に答えなんて出そうにもない疑問をふわふわと頭の中に漂わせていた。

    “大人になるってどういうことなんだろう”
    一人時間に物思いに耽ることが好きな私の最近のテーマだ。
    まだ小さかった私が思っていた大人の年齢にはとうの昔に達しているというのに、思い描いていた「大人」にはまだ全くなれていない。
    それどころか、学生だった私から何が成長したというのだろう。あの頃から変わったものといえば、仕事の上手なこなし方とお酒のマイペースな飲み方を知ったことくらいかもしれない。

    それはそれでしょうがない、と呑気に考えながら平和な1日が終わろうとしていたその夜、なにげなく整理していたパソコンの中の写真にふと目が留まった。
    あどけない顔で友人とはしゃぐ後ろにはミラノの街が写っている。
    大学の卒業旅行の写真だ。

  • 懐かしさがこみ上げてきたと同時に心に浮かび上がったのは、ミラノ行きの電車に乗った時の光景だった。
    私の斜め前の視界に入ってきた、とても仲の良さそうな大人のイタリア人夫婦。ジャケットにきちんと整えられた髪でキメたムッシュの隣に座るマダムは、上質そうなニットの片方の肩を少しだけ見せて着崩し、スリムなデニムパンツの上にはスタッズのついた黒のロングブーツを履き、クールな装いなのに幸せそうなオーラをいっぱいに醸し出していた。
    ふわふわしたニットにふんわりスカートとぴったりと脚に沿うブーツ、なんていう甘い雰囲気が幸せな女性の、またはモテる女性の象徴、だなんて思っていた当時の私が、一気に真逆の価値観を見せつけられた瞬間。いつかこんなカッコいい「妻」になりたいと、大人の女性の憧れとして、強烈に頭に刻み込まれた出来事だった。

  • そういえば…。

    今日私が思わず立ち止まったあのウィンドウ。
    なぜか惹かれたあのブーツは、この時に見たブーツにどこか雰囲気が似ていたような気がする。
    でも、今日のブーツはあの時のマダムのスタッズ付きブーツとは似て非なる、強さもありながらどこか優しげなフェミニンも感じさせるアイレットやアーモンドトゥ。
    少しハードすぎたデザインが、日本人の私にも履けるデザインへと形を変え、時を経てここへやってきてくれたようだ。

    ブーツはモテるための三種の神器の一つだと思っていた学生時代のそれとは違う、決して男性に媚びることのない大人のブーツ。
    イタリアのあのマダムのように、自分らしく履いてみたい。
    「大人」になりきれていない今の私に何か足りないものがあるとするなら、その答えはここにある気がする。
    このブーツを履いた、媚びていない私を好きと言ってくれる人がいたならば、それは運命の人となるかもしれない。

    そんな風に思ったら、少しでも早く手に入れたくなって、なんだかそわそわしてきた。

    長い長い夜が明けたら、朝一番にあのお店に行こう。
    「大人」だけがしっくりとくるシンデレラブーツで、本当の幸せを掴むために。

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