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Moment di 360°

07

armonia

平凡だけど最も落ち着く、穏やかな水曜の夜のはずだった。

「そう?僕は嫌いじゃないけど。」

ゆったりとした空気感を一変させる不意打ちすぎる一言に、私は一瞬にしてたじろいだ。
どんな話も私の顔を見つめながらニコニコと聞いてくれていた彼の口から、こんな言葉が出るなんて。
動揺したことに気づかれまいと、ストローを持つ手を回し続けることで気を紛らわしていた。

そもそものことの発端は、最近私のプロジェクトチームに入ってきた、あの女だ。
とにかくミーハーで新しいもの好き。世渡り上手なのか、あらゆる人と垣根なく仲良くする姿もなぜか目についた。

「あの子、物事の背景とか伝統とかに全く興味がないタイプよね。目新しさばかりに流されて、何も考えてないみたい。」

同じ会社で年下の彼にとって、いつも素敵な大人の女性でいたいと思っていたのに、ついつい思っていることがそのまま口に出てしまった。
私と正反対の彼女を擁護するようなさっきの言葉が頭の中にまとわりついて、このままでは女としての嫉妬も芽生えてきてしまいそうだった。

「お店変えて飲み直さない?」

私たちがタクシーに乗ると、それを待ち構えていたかのように突然激しい雨が降りだした。
凄まじい雨音が気まずい沈黙をかき消してくれた。

  • タクシーを降りて店内に駆け込む私たちに容赦なく雨が降り注ぐ。
    たった10歩ほどだというのに私たちは思わずクスッと笑ってしまうほどびしょ濡れで、互いに見合った途端これまでの緊張の糸が一瞬にして切れた。

    「ちょっとだけ待ってて!10分だけ!」

    さっきより落ち着いたとはいえ、まだ小雨降る中、傘もなくまた店を飛び出す彼を微笑ましく思いながら見送った。
    彼はちょっとバツの悪いことがあると、彼は決まって花束をどこかから調達してきてくれる。
    いつものごとく、約束の10分を回る前に、いつもの嬉しそうな顔で店に戻ってきた。
    濡れた髪から覗く彼の笑顔は、子犬のような愛らしさが一層引き立って見える。
    ただ、背中に隠している何かは、私の予想していた”いつもの”ではなかった。

    「これ、昼間にここのすぐそばでたまたま見かけてね。プレゼントしたいなって思ってたところなんだ。」

    促されてラッピングを解くと、そこにはクリーンなトープカラーのスエードサンダルが入っていた。
    あのイタリアンシューズブランドの象徴ともいうべきホールカットが施された靴だ。

  • その、定番デザインの風格を裏切るように、つま先からちらりと覗くコルクが醸し出すカジュアル感。
    華奢なストラップや女らしいフロントフォルムからは想像させない、ずっしり太くて丸いヒール。
    私の予測を見事に裏切るアンバランスなミックス感はエレガントなのに目新しく、とても魅力的なオーラを放っていた。

    「このバランスの魅力を知って欲しかったんだ」

    私の心の疑問が聞こえているかのように彼は答えた。

    濡れたパンプスから履き替えると、お気に入りの白のワイドパンツが水を得た魚のように輝きを増した。

    あ、なんか新鮮。

    こうでなきゃいけない、と何でも意固地に決めつけてしまいがちな自分が急に恥ずかしくなった。
    仕事も日常も肩肘張りすぎていたのかもしれない。
    頑なすぎる私と柔軟すぎるあの子、相反するけれど実は表裏一体。
    一緒に同じ方向を向くことができたら、素敵なことが始まりそうな気がする。

  • 既にその事実に彼が気づいていたことにハッとした私は、靴を見下ろしていた目を彼の方へと向けた。
    さっきまで子犬のように見えていた彼が、初めて頼もしく見えた。

    そしてそれは、石橋を叩いても渡らない私が人生で初めて、後先考えずに衝動的な言葉を発した瞬間でもあった。

    「私たち、そろそろ一緒に住んでみない?」

    店を出て空を見上げると、澄んだ空に浮かぶ美しく大きな満月が私たちを照らしていた。

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