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Moment di 360°

09

Start a “my” life

「なるほど…」
目の前に差し出されたその靴は、スモーキーなブルーのスエードパンプスだった。
履き口に一周して花びらのようなカッティングレザーが施されたデザインは、リザードの型押しが使われているせいか、甘い雰囲気の中にも大人の趣を感じさせ、独特なオーラを醸し出していた。
色味もつくりも、これまで見たこともないその靴は、とても素敵だとは思ったけれど、実際、私が似合うという予感はあまりしなかった。
いや、似合う自信がない、という方が正しいのかもしれない。

  • 私がこの「パーソナルスタイリスト」というまだ目新しい職業の方に身を委ねてみようと思ったのは、別におしゃれになりたいという願望からじゃない。

    毎日会社でそれなりに仕事をこなし、彼氏も普通にいる。
    友達関係だって良好で、正直今の人生に特段不満があるわけでもない。
    でも…。

    時々ふとした時に不安に襲われていた。
    それは原因のない不安。
    5年くらい先に結婚をして、そのうち子どもを産んで…なんとなく先が見えるようになってしまったこの人生は可もなく不可もなくの人生。
    いや、もしかして今の彼氏と別れてしまったら、私はこのまま誰かの永遠の一人にはなることなく、ずっと孤独に生きることになるんじゃないだろうか。
    そもそも、会社でも友人との間でも、私って唯一無二の存在になれているのかな?
    このまま放っておけばそれなりの毎日は送れてしまいそうなところも、一度きりの人生が無難に終わってしまいそうでなんだか怖かった。

    今の流れを変えたいというのは贅沢な悩みなのだろうか。

    何もせずにはいられず、思いつくものを色々と試してたどり着いたのがパーソナルスタイリストという存在だった。

  • 「これ、ヴィンテージっぽく作られていてとっても珍しいでしょ?ヒールの形も裾広がりの形でフレンチ風なんです。お手持ちの服も一気に雰囲気が変わると思いますよ」

    私の戸惑いにきづいているかのようにもうひと押しの言葉を添えた彼女に、私は少し意地悪な言葉で返した。

    「ヴィンテージ風って流行ってるみたいだけど、どんなところが良いんですかね?」
    上級者が楽しむものというイメージのこの領域に足を踏み入れようと思ったことはこれまで一度もなかった。私はファッションアディクトではないし、行き過ぎたおしゃれも好きなわけではないからほどほどに楽しみたい。”ただトレンドだからと言う理由で私に押し付けないで”という主張も込めた質問だった。

    「その人をその人らしく。最新という鎧をつけなくても、ありのままの良さを味わいとして引き出してくれるところかもしれないですね。」

    なんだか意外な答えだ。ファッションに精通している人なら「抜け感が〜」とか、「洗練感が〜」なんていう、雑誌から飛び出してくるような言葉が出てくるとばかり思っていたから。

  • 何かを変えたいという漠然としたオーダーの答えとして差し出されたその靴をもう一度眺めてから、自分の足に合わせてみると、彼女の言う通り、独特の雰囲気が私を包み込んだ。
    予測できることしか起こらない最近の私には、とても大きな事件。
    周りに評判の占い師に見てもらったり、厄落としにいいと言われるパワースポットに足を運んだりした時には見当たらなかった、暗闇からの出口をほのかに感じた。

    これが”ヴィンテージ感”の魅力なのか…。

    若さを武器にしていた頃には絶対に出なかったこの味わい。
    多分同じ靴を履いても誰一人同じ雰囲気にはならない。
    伸びしろを感じなかった自分だけど、本当はまだ色々な可能性がある。
    そう考えたら、急に未来が開けような気がした。

    そう、食わず嫌いでいたヴィンテージのおもしろみを教えてもらったこの日。
    それが、私が自分らしく人生を楽しむきっかけとなる、忘れられない日となったのだった。

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