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Interview
the HEELS
"BRASS"
真鍮

INTERVIEW 西本卓也さん「千sen」/金工家

INTERVIEW 西本卓也さん 「千sen」/金工家

自然の風土がもたらす変化にニュアンスを加えプロダクトとしての完成形を突き詰める

___真鍮で作品作りを始めたキッカケとは?

元々はジュエリーを作っていたので、ジュエリー素材として馴染みのある素材だった真鍮。ゴールドやシルバーなどの柔らかい金属素材、または鉄のように硬い金属素材、それらに比べてちょうどいい硬さである真鍮はとても扱いやすい素材なんです。可能性が広いんですよね。プライベートで古物を集めているのですが、家具のパーツなど何かしら残っているパー ツで多いのもまた真鍮。経年変化しながらも格好いいので、気付けば自分が選ぶものは真鍮ばかりでした。

___ジュエリーからインテリアへと転身したキッカケとは?

ジュエリー以外のプロダクトに興味が強くなっていった時、「ジュエリーで使用している技法でインテリアプロダクトを作ってみたらどうだろう?」と思い立ち、小さなパーツから真鍮で作り始めてみました。ジュエリーからインテリアプロダクトヘ移行した人はあまりいなかったので、オーダーもどんどん増えていきました。 細かい技法で真鍮を操れるということが、インテリアプロダクトの部分でも必要とされていたんです。

___真鍮でのインテリアプロダクト作り。西本さんだからこそのこだわりを教えてください。

僕は作品というよりプロダクトを作りたい。建築などは1mmずれたらアウトですよね、そこに作為は出せない。それと同じで、あくまでも手で作っているけれど、プロダクトとして完成したものを作りたいんです。作品となると、作風として許される部分がある気がして、そういう部分が僕はイヤなんですよね。でも、自分が何かを買うときはまた全然違って「こういう部分がこの人らしいんだよなぁ」という作家性の部分に惹かれて買うことが多い。あくまでも自分が作る時だけ、作家性ではなくプロダクトとしての完成形に拘っています。分かりやすい点で言うなら、デザインに無駄なニュアンスを入れないようにしています。僕の作品は、単純な直線や曲線のみで出来上がったプロダクトが圧倒的に多いです。作家さんはきっと、自分の作品を好きな人たちに手に取ってもらいたいと思うのかもしれません。僕はある程度広い人たちからOKがもらえるようなものを、自分がいいなと思う感覚上に置いておきたいんです。だから基本的には自分の名前は出さず、ブランド名「千 sen」でプロダクトとして活動しています。

___奄美という土地が作品に影響をしていますか?

実は奄美という土地は湿度が高いので、真鍮を扱うことには向いてないんです(笑)。海に魅せられて移住してきているので、そこはもう仕方ないので、気にしていません。最近は赤土にしばらく埋めたり、海水につけて置いたりと実験的に色々なことを試してみています。赤土に埋めてみると、薬品で色を変化させるのとはまた違った深い色味に変わっていて。そういう新しい発見が楽しいですし、今回のヒール製作でも赤士に埋めて色を変化させています。

___制作中、自分にとって大切なものはありますか?

潮回りで自分のスケジュールは全て決まるんです。北風が吹き出すと風が合い、波のうねりが綺麗にブレイクし始めるので海に行きますし、サーフィンを中心に、SUP、舟漕ぎ、シーカヤックをするので、海が中心。その空いた時間が仕事の時間です。作っている時にも頭のどこかで海のことを考えていますし、海で波待ちをして浮いている時に作品のことを考えています。作りたかったものがあり、それにはこの形状がいいかもと波待ち中に思いつくことも多いんです。

___今回 "ヒール" をモチーフに作品を作るとき、どう構築しましたか?

2パターンは全く違うものを作るということだけ、決めていました。フライス盤と旋盤という2種類の機械を使いたかったので、曲線的なものと直線的なもの2パターン。ジュエリーに携わる前は靴の学校に行っていたので、実は自分で靴を縫えるんです。後ろから見たときに綺麗に作るには、ヒールカップからヒールヘの延長部分が重要だと思っているので、そこを意識しました。自分自身が作家性というものをあえて遠ざけているところがあるので、こういった作家的なオーダーは、デザインを着地させるまでに悩みましたが、手を動かし出したらあとは細かいところを考えながら手を動かし続けていくだけ。試作を重ねたりすることなく、完成に着地できました。直線的な方のヒールは、赤士に埋めたので色が変化しています。

TAKUYA NISHIMOTO/西本卓也「千sen」/金工家

にしもとたくや・1980年生まれ。彫金を学んだ後、製靴デザインを学ぶ。2010年、京都のアトリエにて真鍮を中心に店舗や住宅、インテリア、服飾などの金属デザイン製作を行う。2017年、奄美大島に拠点を移し、製作を行う。 デザイナー、建築家、テーラー、各プランドなどと作品を発表。

Instagram : @sen_kyoto

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