「現代版お袋料理」を世界に発信したい。そんな熱い想いを抱きながら、週に一日だけオープンするレストランを営む料理家の谷尻直子さん。チャレンジを楽しみつつ、軽やかに前進しながら、女性としても輝く彼女に、靴とともに歩む日々の生活と、日頃から大切にしていることについて話を伺った。
Interview
Donna per PELLICO
16
INTERVIEW 谷尻直子さん
低めのヒールがライフスタイルにしっくりくる
料理家としての谷尻さんの仕事は、想像以上に多岐にわたる。店に立って腕を振るうのはもちろん、外部と進めるプロジェクトのために打ち合わせに出かけたり、ワークショップやイベントの準備をしたり。普段、いったいどんな靴を履いているのか? 率直にそのポイントを尋ねると「今のライフスタイルにちゃんと寄り添う靴」と一言。
「実は、もともと街を歩くのが好きなんです。外に出て太陽の光を浴びるのは、息抜きにもなるし、シンプルに気持ちがいいので。だから靴を選ぶ第一条件は『歩くことが叶う靴』。ヒールの高さは低めで、3.5〜5センチが私のスタンダード。ペリーコの靴はそのレンジの靴が多いし、働く女性の足に優しい。50年あまりの歴史があるんですって。そういったクラフツマンシップかな?形といい縫製といい、職人さんとのコミュニケーションをきちんと取られている印象を受けます。それと、色も素敵。伊勢丹新宿店のショップには、カラフルな靴がずらりと並んでいて、まるで絵の具のパレットみたいで」
もの作りに惹かれるのは、育った家庭の影響かも
この日のためにセレクトしたのは、昨年の春夏シーズンに誕生した新アイコンLUNETTA(ルネッタ)。両サイドに施された月をイメージさせるホールカットが印象的な一足を、「ポインテッドなフォルムだけれど履き心地がばっちり。長く活躍してくれそう」と顔を綻ばせる。この靴に合わせた大人のガーリーといった趣の黒のトップスと、春らしい白いパンツのコーディネートは、「このまま店に立てちゃう」くらい、動きやすくて機能的ないつものスタイル。手元のシルバーとレザーのバングルに谷尻さんらしさが光る。
「見た目以上の何か、例えばもの作りの背景とか、技術へのこだわりが感じられるアイテムが好きなんです。それは板金店を営んでいる家族の影響もあるのかも。父親はとにかくなんでも作っちゃう人で、小学生の頃、カブト虫の虫かごをおねだりしたら、翌朝ステンレスのケージが出来ていて驚いたことも。明らかにみんなと違ったから恥ずかしかったんですけど、今にして思うと、そんなにかっこいい虫かご、なかなかないですよね(笑)。そういうゼロから何かを生み出す創造力と、既存のものにひねり加えて作り出すマインドは、料理家である私の糧になっているのかもしれません」
奇をてらわずに、楽しみながらアップデートする
毎週金曜日にオープンする自身のレストラン『HITOTEMA』は、日本の家庭料理をベースにした料理の店。ただし、直球ではなくて、そこに文字どおり「一手間」加えてアレンジするのが谷尻さん流だ。例えばハンバーグは、一般的な牛と豚の合挽肉ではなくてラム肉を使い、隠し味に刻んだ香草を、そしてお醤油味のタレで提供する。懐かしさと同時に、どこか新しさも感じられるような一品を目指して、日々研究している。
「食を通じて日本の魂を伝えたいんです。だから自分がシェフだとは思っていないです。それよりは大人数の子供を持つお母さんのつもりで作っています。肉が好きな男の子がいても、むしろ野菜を出しちゃうような(笑)。お店のレイアウトも、カウンターテーブルが一つで、それを囲むようにして椅子がある。レストランというよりは、一般家庭の食卓みたいな雰囲気。実際、ここで偶然隣あった人たちの間で会話が生まれて、話がはずむなんてことも。日本のホームメイドクッキングに興味を持つ海外からのお客さんも増えていて、今年はアメリカ版「HITOTEMAのひとてま」の出版が予定されているんです。店の空き時間を使った曜日限定の寿司店のプロジェクトも進行していて、先日も打ち合わせをしたばかり。今年は忙しくなりそう」
後編は3月4日(水)公開
オフの日をイメージしたスタイリングの足元に選んだのは、アシンメトリーなデザインが印象的なサンダル。
後編をどうぞ、お楽しみに。
谷尻直子/Naoko Tanijiri
料理家。BEAMSメンズ販売、スタイリストを経て食の世界に身を転じる。毎週金曜日、東京・渋谷区のレストラン『HITOTEMA』で腕を振るう。メニューはコース料理のみで、予約は公式Facebookから。著書『HITOTEMAのひとてま』(主婦の友社)が発売中。 Facebook: @hitotemashibuya/ Instagram : @naokotanijiri_hasegawa