PELLICOPELLICOPELLICO

Interview
Donna per PELLICO

29

INTERVIEW 岡西佑奈さん

INTERVIEW 岡西佑奈さん

幼い頃から書道に親しみ、現在は書家としてだけでなく、アーティストとしても独自のキャリアを歩み始めている岡西佑奈さん。控えめながら芯の強さを感じさせるしなやかで美しい、そして力強い一線は、人々の感覚を沸き立たせ、揺さぶる。書の枠を超え、作品をアートの領域に昇華させた彼女は、どんな思いを大切に創作活動を続けているのか。その素顔に迫る。

細部と俯瞰。両方があってはじめて美しさは成り立つ

「書道をやっているからというわけではないのですが、基本的に和のアイテムが好きで、しっとり落ち着いた雰囲気のものを身に纏っていたいなと思っています。今履いているスカートも着物の紗生地を使ったもので、お気に入りの一枚です」

日本の伝統美を感じさせる装いに、イタリアのクラフツマンシップが息づくペリーコシューズを。和と洋の組み合わせも、エレガントという共通軸があるからこそ、絶妙なバランスで成り立つ。

「バランスって実はすごく大事で、例えば、書は一線に集中して書くものですが、私にはずっと余白を描いているような感覚がありました。際立っている墨の部分だけでなく、白い部分である余白をいかに美しく残すか。そういう意味では、ファッションも同じなのかなって。ディテールにこだわりながらも、俯瞰して全体のバランスを見ないと完成しない。それが全体の美しさに繋がると思います」

では、その美的感覚を磨くためにしていることは?

「自分が美しいと思えるものに触れる時間を意識的に増やすことでしょうか。私の場合は、夕焼けとか海の水平線とか。美しいものを目に焼きつけておくと、書くときのバランスがそこに近づくのかなって。今は行けないけれど、海に潜る時間も大切にしています」

岡西さんを語るうえで欠かせないのが「サメ」。シャーク・ダイビングが趣味という、意外な一面も見逃せない。

「小さい頃からずっと好きで、もともと身体が弱かったこともあり、強く勇敢なサメに憧れたんですよね。書道をしている時間が “静” だとすれば、サメと一緒に泳ぐ時間は “動”。相反するものを求めるじゃないですけれど、表現者であり続けるために必要な刺激なのかなって。サメの流れるような動きを表現した『青曲(せいきょく)』は、墨ではなく絵の具を初めて用いた、作家として転機となった作品です」

今までもこの先も、誰かの何かのきっかけになりたい

既存の枠にとらわれず軽やかに、そしてしなやかに自分の道を邁進する彼女は、まさに今の時代を象徴する女性像。ファッションにおけるこの春の気分を尋ねると、「柄で遊びたい」という答えが。

「最近はシンプルなオールブラックコーデばかりしているので、着こなしのアクセントになる小物に目がいくように。遊び心の効いたキャンバスチェックのパンプスは、バックルのモチーフも印象的。このシューズはキャメルもあるのですが、私は大好きなネイビーを選びました。私のファーストペリーコであるANELLI(アネッリ)と通じるような品のよさがあって、履くだけで“いい女”になれそうな気がします」



岡西さんは現在、墨を用いた造形美を追求する「墨象」に挑んだ展覧会を開催中。
素材が墨であることは変わりないが、石や紙、枝などを筆の代わりに用いて描き、彼女は彼女の「書」を貫こうとしている。

「墨象はもともと好きで、ずっと作り続けていたもの。自分は和紙と墨、白と黒がやはり好きだなと原点回帰したのも大きいですね」

すっかり墨象モードに入ったという岡西さんは、しばらくこの道を突き詰めていくことになりそうだ。ただ、彼女は何を作るにせよ、そこには書家になると決めたときから変わらぬ思いがある。

「私はその時々で、自分の大事にしていることを作品にして発表してきました。昔から失敗したくない、人からよく思われたい、そんな気持ちから自分の心に蓋をしてしまうことがありましたが、その蓋を開けるきっかけが作品作りでした。作品に勇気づけられた、と言われて嬉しかったことを覚えています。 誰かの何かのきっかけになりたい、なれたらという思いが強くあるようです。
一つひとつ丁寧に向き合っていきたい。それが自分の成長にもなるのかなと思います」

(衣装:ARLNATA)


岡西佑奈/Yuuna Okanishi

6歳から書を始め、栃木春光に師事。高校在学中に師範の免許を取得。水墨画は関澤玉誠に師事。書家として文字に命を吹き込み、独自のリズム感や心象を表現。近年では、書のみならず墨象や絵画を手掛け、国内外で個展を展開。中国天津美術館所蔵の作品や東大寺大仏殿でのライブパフォーマンスも話題に。現在、ISETAN SALONE ART WALLにて展覧会「ゆらぎのなかで」を開催中。

Instagram : @yuunaokanishi

  • share this article

Shop this Story’s Looks

BACK NUMBER